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    ◇  ◇  ◇ 「山際さんはここから僕とは逆方向ですね」  駅に到着して、尚登が実質別れを告げる。  名前と年齢も、奈津美の仕切りで駅へと送り出された際に改めて紹介されるまで知らなかった。のちに聞くと彼も葉音についてはその時初めて知ったそうだ。  店では中身のある会話など何もしていなかった。 「はい。どうもありがとうございました」 「何故? 僕は何もしていません」  謝意を示される理由がないと言いたげな彼に説明する。 「送って、と言いますか、駅まで一緒に来ていただいただけで助かりましたから。この時間にここで一人はちょっと不安で」 「目的が同じ場所なんですから特別なことはありませんよ。……山際さんは平気なんですね」  淡々と説明した彼は、ふと目を伏せたかと思うとすぐに葉音の目を見て静かに言葉を発した。 「えっと、……どういう意味でしょう」 「僕が何か訊くと、女の人は呆れるんです。普通の人なら察することが僕にはわからないことが多いもので。はっきりとは出さなくても、なんとなくわかってしまうんですよ。──どうせなら徹底的に鈍ければ気づかずに済むんですけどね」  おそらくは飽きるほど繰り返された事実なのは、彼の声の調子で伝わった。
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