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 何もわからない、と言いつつも、尚登は相手の心の機微は一部なりとも読み取っている。  いっそ何も見えなければ、という彼の痛みが葉音の中に流れ込んでくる気がした。  きっと同じだからだ。  葉音も「普通の女の子」のようには振る舞えない。男性と「ごく普通に」接することができない。  現実では初めての、のちに思い返してみればまるでのような不思議な感覚。 「あの! あ、あの、神崎さん。また、あ、会えませんか!?」  では、とあっさり踵を返そうとした尚登を、考える前に引き止めていた。  今でも、よくあんなことができたものだと自分でも信じられないほどだ。  ここで「何故ですか?」と問われたらきっともう二の句が継げなかっただろう。 「はい。僕もあなたとはまたお会いしたいです」  しかし彼は一瞬虚を突かれたように黙り込み、すぐに口元に笑みを湛えて答えた。  そこから始まった二人は、自然と恋人になった。  あの月の夜、葉音はそれまで縁のなかった、……一生無縁だと考えていた恋をした、──いや、のだ。  それまで知らなかった。恋はするものではなく、落ちるものだと。
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