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「尚登さん。今日は私、行きたいところがあるの」  淀んだ空気を払拭しようと、葉音は故意に明るい声を上げた。 「どこ? 僕はどこでもいいから合わせるよ」  尚登は本当にそういったことに拘りがない。  出掛けること自体があまり好きではないようだが、葉音と会うのは楽しい、と言葉でも態度でも示してくれていた。 「プラネタリウム! そんな話してたら見たくなった」  断られたら一人で行けばいいだけだ。葉音は単独行動になんの躊躇もない。食事も、遊びも。  そして彼は、「こんな事を言っては呆れられるのでは、興味もないのに付き合わせるのは申し訳ない」という余計な気遣いが不要なところがとても楽な相手だった。 「うん、いいよ。科学館にあったよね? ここからなら、えっと──」  スマートフォンを取り出して検索してくれる恋人。  尚登は嫌なことは決して不明瞭なままにはしない。  他に希望がなく、自分の中で納得できれば他人に合わせることは厭わないので、葉音も遠慮なく正直な気持ちを告げられていた。  見ようによっては冷たい人間なのかもしれない。  しかし常に他人の言動の裏を窺うのを煩わしいとしか感じない葉音には、その必要がない尚登は共に過ごして心地良い恋人だった。
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