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「支店長、あの! あの、えっと──」
専用の部屋のドアをノックして、応えがあると同時に開く。用件を伝えようと焦るあまり言葉が出てこない。
「どうした? 君、この間入ったアルバイトだよね?」
落ち着いた態度ながらも、普通ではない事態を察してか真剣な顔で問うてくる支店長の上坂 龍弘。
「はい、佐原です。すみません、あの。──来ていただけますか!?」
とにかく何よりも急がなければ。亜沙美は失礼は承知で彼を急かした。
「……わかった。何かあった? 上手く話そうとしなくていいからちょっとでも情報くれるか?」
「お客様が、その。今野さんが、お客様の話を『クレーマー扱い』っていうかそういう……」
小走りで現場に戻りながら上坂に訥々と事情を話す。
今野 わか子は四十代の女性パートタイマーだ。
仕事ができないわけではないが、思い込みで客に威圧的に対応して何度か騒ぎを起こしたことがあると亜沙美も聞かされていた。
もしまた『何か』あったときにスムーズにカバーできるようにだろう。
「結局、今野さんの言い分が間違ってたってことでいいのか?」
「はい。お客様がロビーで本社に電話で問い合わせて確認されたんです。戻ってそれ言われても、今野さんが『ああ、じゃあ仕方ないから受けますね』みたいな感じで。謝りもしないで『あとはこの子に』って私を出して言われたんで、たぶんそれにも怒ってらして」
「……それは怒らせても無理ないな」
言葉を選びながらも苦渋を滲ませる上司。
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