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「だからあの後山際さんが神崎さんと約束して会った、って聞いた時思わずガッツポーズしそうになったよ!」  雑談の流れで、あの集まりの話題になった際に口にしたのだったか。  大袈裟な彼女にここは笑うところだろうか、と間を置いてしまった葉音に、奈津美はふっと真顔になった。 「同性に好かれて、心配されるような人が一番よ。山際さんにはそういう人が合ってると思ってたの。口出すのは踏み込み過ぎだから、黙って陰ながら応援してたのよ、実は」  どう返せばいいのか判断できず、葉音は「ありがとうございます」と親切な先輩に頭を下げた。  もう十二月の足音が聞こえる時期。  職場での報告も済ませ、結婚式の準備を進めながら当然仕事も変わらずこなしている。  尚登はすべて葉音に丸投げするような真似はしないが、正直かなり疲弊していた。  毎年、師走に入ってすぐに課の忘年会が催される。  言うまでもなく強制ではないが、歓送迎会と忘年会、新年会程度しか全体の飲み会は開催されないため、よほどの事情がない限りは皆が参加するのが常だった。    当たり障りのない会話を繋ぎ、良くも悪くも目立たずに過ごす。  結婚についても、個別に仲のいい同僚ならともかく上司や親しくもない課員が余計なことを口にして、和気藹々とした場の空気を凍らせることもない。  第一この職場のみならず勤務先では、仮にも大企業に数えられる以上コンプライアンス関連は執拗なほどに周知徹底されていた。
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