4人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
「香川さん、おは──」
翌朝、出勤して挨拶し掛けた葉音は、どこか強張った表情の奈津美に腕を引かれた。
「山際さん、余計なお世話は承知で言うわ」
そのままオフィスから葉音を連れ出した彼女は、廊下の端で唐突に切り出す。
「雨宮さんには気を付けて。そもそもあなた婚約中でしょ? 疚しいことがなくても、行動には注意した方がいい」
昨夜のことを指しているのはすぐにわかった。
雨宮と並んで歩く羽目になったのはほんの偶然だ。
しかも二人きりというわけでもない。多少離れてはいたものの、前後には課の人間が揃っていた。
……それでも婚約者ではない男と二人で視線を交わし、「普通の関係」ならまず口の端に上ることはない言葉がその間にあったのは事実だ。
もし誰かに聴かれていたら、「なんでもない」という言い逃れさえ白々しい。
葉音は彼の台詞を拒絶もしなかったのだから。
最初のコメントを投稿しよう!