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「いい大人にこんなこと言いたくないのよ。でもあなたはあたしにとって、幸せになって欲しい可愛い後輩なの。鬱陶しいお局だと思われてもいい」 「わ、私は香川さんのことそんな風には──」  それはわかってるから大丈夫、と奈津美が静かに宥めてくれる。 「ねえ、考えてみて。雨宮さんは山際さんが結婚決まってるのも当然知ってるのよ」 「あ、……はい、それはもちろん」  答えた葉音に彼女が畳み掛けて来る。 「つまり、『結婚迫られることもなくてあと腐れない』ってこと。相手が乗って来なかったら冗談で流せば済むわ」  それは悪意が過ぎるのでは……、と感じたのが伝わってしまったのか、奈津美が嘆息して口を開いた。 「──あの人、さすがに公にはなってないけど前科あるのよ。だから女性だけじゃなくて、男性社員にもちょっと距離置かれてるでしょ? みんな仕事には私情入れないけどさ」  そこまで言われて初めてようやく、確かに課内にはそういう雰囲気があることに思い至る。  あとはあなたの判断だから、と奈津美が葉音の肩を軽く叩いて去って行くのを呆然と見送るしかできなかった。
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