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◇ ◇ ◇
「月が綺麗ですね」
──あの人は、きっと誰にでも同じことを言うんだわ。
そして、簡単に心変わりする。
葉音の心を揺らしたあの台詞など、単なる小道具でしかないのだから。
恋人がいる、……結婚が決まっていることもよく知る女に平然と「知っていれば告白に等しい」台詞を吐ける男が誠実なわけがない。
結婚して二人で幸せな家庭を、と同じ方向へ進んでいた筈の大切な人を、無意識のうちに蔑ろにしてしまっていた。
やはり自分は愚かで、年齢不相応に幼いのだ。
奈津美に苦言を呈されるまでもなく、自ら危機感を覚えなければならない事態だったのに。
尚登には決して知らせない。
こんなくだらないことで、彼の良さを再認識させられたなどと。
月が綺麗だったあの夜に、葉音は尚登だけではなく己の『恋心』に出逢ったのだ。
突然葉音に舞い降りた恋は、時を経て熟成されこのまま愛に育つのだろう。夫婦として、……家族としての。
おそらくは揺蕩っていたこの気持ちそのものが、巷でいう「マリッジブルー」というものなのではないか。
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