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「あ、支店長!」
二人は井上の心底ほっとしたような声に迎えられた。
「こちらの方?」
客に会釈してそっと井上に確認する上坂に、彼が答える。
「そうです。事情は?」
「アウトラインは訊いたけど、肝心の詳細はまだ。教えてくれ」
上坂の言葉に、井上がごく簡潔にそれでも漏れなく流れを説明する。
さすがに新人アルバイトの自分とは状況の把握能力が違う、と亜沙美は妙なところで感心させられた。
今野に呼ばれて前に出たものの、相手の憤りの意味もわからず狼狽えるだけの亜沙美に余計に苛立つ客の悪循環。
一つ一つ念を押すように繰り返してくれた彼女に、ようやく状況が掴めたようなものだった。
そこへ、席を外していた亜沙美の指導社員である井上がやって来たのだ。
「大変失礼いたしました。こちらの不手際でご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
一切弁解することなく、真摯に詫びて深々と頭を下げる上坂。
状況からして言い訳の余地など何もないので当然かもしれないが、人の上に立つ人間だけのことはある、と人生経験も浅い学生の身では感じた。
「あのね、私別に『何かしろ』とか要求してるんじゃないの。間違いを認めて謝ってさえくれたらそれで済んだことよ。でもそちらの方は如何にも私が言い掛かりつけて脅してるとでも言いたげだったわね。違う!?」
一応は抑えてはいるのだろうが客の女性が怒りを込めて発する言葉に、名指しされた当の今野は無言のままだ。
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