『羽のない黒天使』

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二人の間では、少し前から結婚話が出ていた。  自分の方が乗り気だったのは間違いない、と晋也自身思っている。  菜穂も晋也との結婚自体は考えていると話していたし、別に嫌がっていたわけではなかった。  けれど、少なくとも大喜びで飛びつくような素振りは一切なかったのだ。  本人の言う通り、交際を始めて二年になるが菜穂は結婚をせっつくような真似は一度たりともしたことはない。  むしろ、晋也がどうこうではなくて結婚して生活の根幹が変わるのが不安という感じだった。仕事はずっと続けると決めているのも聞いている。  だったら同棲しないか? と持ち掛けたのも晋也の方。……そうだ、菜穂ではなく。 「ホント悪かった!」  お前が望むならここで土下座も厭わない! という勢いで頭を下げた晋也に、菜穂は仕方なさそうに溜息を吐いた。 「……ん、わかった。とりあえずこの仔連れて行こう。ウチの駅前にペット用品扱ってるショッピングセンターあるから、そこ寄って必要なもの買ってこ」 「そ、そうだな。いきなりゴメンな」  申し訳ない気持ちいっぱいに、晋也はただただ頭を下げるしかない。  少しだけ仔犬を見ていてくれるよう菜穂に頼んで、晋也は急いで部屋に入るとタオルの束を掴んで戻って来た。  犬や猫を入れて運ぶような専用の籠など、当然ある筈もないからだ。菜穂が乗って来た自転車の前籠にタオルを何枚も敷き詰めて、その中に黒い仔犬を入れる。  晋也は自転車を持っていないため彼女に先に行ってもらってもよかったのだが、菜穂が小さな生き物を入れて走るのは怖いと言うので晋也が自転車を押して二人で隣駅まで歩いた。
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