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流石に薄いドア越しのやり取りが聞こえなかったはずもないらしく、密着していたのだろう蓮と綾は長机の両端に別れて立っていた。
「あら、宗田さんに春野さん。すみません、やってくださってたんですね」
直美に声を掛けられた蓮ががくがくと頷く。
「あ、ああ。ちょうど手が空いてたから。春野さんも付き合ってくれてさ」
「はい。そうなんです」
上擦った二人の声の不自然さは、美沙にしか伝わっていないのだろうか。
「宗田さん、資料の準備があるんじゃないですか? ここは私たちがやりますから」
「そうだな。できてはいるけど一応確認しとくか。春野さん手伝って」
平然と返す直美に、彼らは連れ立ってそそくさと会議室を出て行った。
「えーと今日はテーブルが、……伊崎さん、どうかした?」
僅かに眉を寄せて息を吐いた直美が、手順を唱え掛けたところで美沙の様子に不審を覚えたらしい。
「す、すみません!」
手の、──身体の震えが止まらない。
「体調悪い? だったら無理しなくていいのよ。気づかなくてごめんね」
「違うんです! ただ、ちょっと手がし、痺れて……。すぐ治まると思いますから」
否定する美沙に、先輩は「戻って下野さん呼んで来て。『私の指示だ』って言えばいいから」と優しく気遣ってくれた。
確かに、この状態では作業の役に立たない。
申し訳ないと思いながらも、直美の案に甘えさせてもらうことにした。
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