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先月、毎年恒例の一時的な業務量増大に関わる派遣社員として、この課に配属された彼女。
係も同じだが細かい担当が違うため、挨拶や顔を合わせた際の簡単な日常会話はともかく、仕事での直接のやり取りはしたことがない。
最も接触が多いのは蓮だろうか。
しかし直美を始めとする先輩後輩問わない同僚女性から聞こえて来る中に、いい話は一つもなかった。
「派遣さん、人によって質が違いすぎて困るのよね。去年の山内さんは、有能だし人間的にもやりやすくてよかったわあ。同じ派遣元でしょ?」
流石に直接綾を貶すことはしないが、遠回しに言いたいことは良くわかった。
あまり仕事ができない、こちらの負担が増えるような人なら、担当が別で良かったという程度の印象しかなかったのだ。
つい先程までは。
だから本当に知らなかった。気づかなかった。あの二人の関係になど。
蓮の言う通り、「結婚している」わけでもない。婚約状態でさえなかった。
──あの子と付き合いたいのなら、私と別れてからにすればいいのに。
手の震えは、多少弱まったもののまだ続いていた。
これでは仕事に差し支える。どうすれば──。
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