『原因は……』

6/8

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
    ◇  ◇  ◇  もう何度も訪れた蓮の部屋。  今は中に美沙ではない女が、……あの綾がいる。  彼と帰って来て、当然のように二人で部屋に入って行った。  迷ったのは一瞬。  美沙はドア脇のボタンを押す。  この単身用マンションには、モニターどころか受け答えできるインターホンさえついていなかった。  単なる呼び出しベルでしかないのだ。 「……ぁーい。何──」  誰何(すいか)することもなくドアを開けた蓮が反応する前に、ドアの縁に手を掛け力を込めて引く。  いくら相手が男でも、身構えていなければ隙をつくことは難しくなかった。 「美沙!」  脇をすり抜けた背中に投げられた声に振り向く気はない。 「え、え!? 伊崎さん、あの」  に悠々と腰掛けていた女が、しどろもどろに発する声も聞き流した。 「私は黙って言いなりになるだけの人間じゃないのよ。知らなかった? 蓮」  男と女の中間地点、ダイニングキッチンと奥の部屋の境目で立ち止まり、くるりと振り向いて玄関で棒立ちの彼に話し掛ける。 「美沙、違うんだ! これは、……ちょっと話が、あって」  ようやく蓮が、こちらに向かって歩いて来た。  そんな見苦しい言い訳で誤魔化せるとでも思っているのか。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加