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◇ ◇ ◇
もう何度も訪れた蓮の部屋。
今は中に美沙ではない女が、……あの綾がいる。
彼と帰って来て、当然のように二人で部屋に入って行った。
迷ったのは一瞬。
美沙はドア脇のボタンを押す。
この単身用マンションには、モニターどころか受け答えできるインターホンさえついていなかった。
単なる呼び出しベルでしかないのだ。
「……ぁーい。何──」
誰何することもなくドアを開けた蓮が反応する前に、ドアの縁に手を掛け力を込めて引く。
いくら相手が男でも、身構えていなければ隙をつくことは難しくなかった。
「美沙!」
脇をすり抜けた背中に投げられた声に振り向く気はない。
「え、え!? 伊崎さん、あの」
ベッドに悠々と腰掛けていた女が、しどろもどろに発する声も聞き流した。
「私は黙って言いなりになるだけの人間じゃないのよ。知らなかった? 蓮」
男と女の中間地点、ダイニングキッチンと奥の部屋の境目で立ち止まり、くるりと振り向いて玄関で棒立ちの彼に話し掛ける。
「美沙、違うんだ! これは、……ちょっと話が、あって」
ようやく蓮が、こちらに向かって歩いて来た。
そんな見苦しい言い訳で誤魔化せるとでも思っているのか。
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