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「何の話? 『綾ちゃん』と、わざわざ部屋に呼んでまでしなきゃならない話なんてあるの?」
軽く蓮のシャツの胸元を掴んだ美沙に、彼が危害を加えられるとでも感じたのだろうか。
綾が突然、決死の形相で美沙に向かって来た。体当たりでもするつもりだったようだ。
いきなり手を引いて身を横にずらした美沙の行動は、完全に想定外だったのだろう。
結果的に、綾は蓮を全力で突き飛ばすことになった。
恋人だった男の後ろには、安物の四角いテーブル。
丸みもない角に後頭部をぶつけた蓮が、声もなく崩れ落ちる。
「え、あ……! 蓮さん! やだあ!」
板張りの床に倒れた蓮を、力いっぱい揺さぶっている女。
頭を打って意識がはっきりしないのなら、それは悪手だ。
しかし、言うまでもなく美沙が忠告してやる謂れもない。
二人を冷ややかに眺めながら、美沙は無言で肩に掛けたバッグからスマートフォンを取り出した。
ディスプレイに表示させた通話アプリのキーパッドを、三回タップする。
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