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「もしもし!? 警察ですか? あの、人殺しです! すぐ来てください、私も殺される! 助けて!」
我ながら切羽詰まった声が出せている。
『落ち着いて! すぐ向かいます。そちらの正確な住所はわかりますか?』
「はい、今野三丁目のマンションわたなべの──」
冷静にそう考えつつ、美沙は回線の向こうの指示に従った。
スマートフォンの通話終了ボタンを押し、ふと気づくと手の震えは止まっていた。全身も。
おそらくはこの部屋に入るときから。
倒れたまま動かない蓮と、床に座り込んで呆然としている綾を見やる。
──ああ、これで大丈夫。
原因がなくなったのだから、もう仕事にも支障はない。
もうすぐ警察が来る。
この女は、そして蓮はどうなるのか。頭に思い描いてみた。
恐怖でも悲嘆でもなく、頬が緩んで、──こころが、ふるえる。
~END~
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