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「俺、中退することになった」
交際してまだ一か月にならない大学の同級生が、亜未と向かい合った大学近くのコーヒースタンドで暗い顔で切り出した。
「あ、……え、と。理久。なんでそんな急に……?」
「親が仕事クビになって、俺に仕送りする余裕なくなったって。今も奨学金目一杯借りてるし、多少バイト増やしたってあと二年も学費と家賃やなんか払えないからさ。私学だし」
伏し目がちに語る彼に、掛ける言葉が見つからない。
「大学やめてどうするの?」
とりあえずの疑問を口にした亜未に、理久が自嘲するように答えた。
「そりゃ働くしかないだろ。就活は新卒用で、どうせ時期なんか関係ないし。今探してるとこ」
雇用調整、大学中退、就職。
ニュースでは他人事として聞き流してはいても、我が身と関連付けてはまったく考えたこともなかった単語。
「理久。もしそうなっても、あたしの気持ちは変わらないから。それだけは──」
喉が詰まりそうになりながらも、ようやく絞り出した言葉への恋人の返答は一生忘れることはないだろう。
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