『OMG! ~Oh My God!~』

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「報告するまでもなく本社にもバッチリ伝わってるし、支店長ちょっと不味いかもな、立場上」  井上が暗い声でぼそっと零すのに、亜沙美も不安になる。  上坂は何も悪くない。  しかし組織の責任者として、部下の不始末に知らぬ顔などできないくらいは亜沙美も理解している。感情とは別の部分で。  実際に、本社から入電があったらしいのも聞いた。 「あのお客様は大丈夫そうだけど。コレ、ネットに全部書かれたらすげーヤバいよ。一から十まで客には何の問題もないんだからな」  客を一方的にクレーマー呼ばわりして、本人からは一言の謝罪もない。「そういう」企業なのだ、とを淡々と全世界向けに公開されたら。  もし騒動になってマスコミ等に確認されたとしても、粛々と認めるしかないのだ。  日常的にSNSに親しんでいる亜沙美の世代には、その危険もリアルにわかる。 「……あの。私なんかが口出せることじゃないですけど、その、──今野さんを窓口の担当から外したりはなさらないんですか?」  周りに誰もいないのを確かめた上で、亜沙美は越権行為だというのは承知で思い切って尋ねてみた。 「あの人さ、他の仕事はスキル的にちょっと無理だから。PC全然使えないし、窓要員として採った人だしな。それに全然何もできない人じゃないのもわかるだろ?」  井上が表現に気を遣いながら説明してくれる。 「そもそも客との窓口って基本的には経験浅いバイトの仕事なんだよ。マニュアルだけじゃ難しいケースとか、それこそ無茶な客とかのために、一応ベテランのパートが入ってるわけ。今は佐原さんが新人だから俺が付いてるけど、普段は今野さんだけなんだよね」  何故、指導役がいつも窓口にいる今野ではなくわざわざ内勤社員の井上なのか、という疑問も同時に解けた。
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