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◇ ◇ ◇
「『エイプリルフール』ってテレビやネットなんかではよく聞くけど、実際に経験ある? 私の周りにはないんだけど」
大学の同級生である結衣子と偶然会って、カフェで旧交を温めていた最中だった。
唐突な彼女の問いのきっかけは、四月初めという時期よりも今流れている曲だろう。
数年前に流行った、ドラマの主題歌。
「エイプリルフール」の嘘を巡る恋愛の駆け引きを描いたものだったと記憶している。
亜未は観たことはなかったのだが、SNS等で話題になっていたので嫌でも情報は入って来ていた。
「……あるよ」
「え!? マジ? 亜未が仕掛けたほう?」
結衣子の意外そうな顔に、滲み出るように蘇った苦い記憶。
「ううん、逆。『騙された』方よ。……あんなの何が楽しいのか全然わかんない」
亜未も「エイプリルフール」そのものが無意味で害悪だと断じる気まではなかった。
ただ、個人的にはいい思い出でもなんでもない。
「へぇ、そーなんだぁ。あ、そういえば知ってる? 仁嶋くん離婚したって。二回目だよ、まだ三十なのに。大学出て何回転職したのか知らないけど、今無職だってよ」
不意に話題を変えた結衣子からの情報に驚いたのは、「二度目の離婚」ではなく「あんな男でもまた結婚できたんだ」という部分だった。
もともと結衣子は話好きで、次々話題を変えていくタイプだったと思い出す。
──結局、人間の本質なんていくつになっても大して変わんないってことなのかな。
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