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亜未が仁嶋 理久と付き合っていたことは、特に秘密にしていたわけではなかったが少なくとも結衣子は知らなかったはずだ。
彼女は人の話を聴くのも話すのも好きだったが、詮索はむしろ苦手だった。広く浅くの人間関係を謳歌していたとでもいうのか。
「上辺だけの軽い人間」という見方もできるかもしれないが、亜未はむしろ裏表のない結衣子に安心感を覚えていた。
それにしても偶然にしてはあまりにも絶妙なタイミングだが、それだけ噂になっているということなのだろう。
五年前に最初の結婚に失敗したまでは、定期的に会っていた友人から聞いていた。
ミスを認めず言い訳だけは一人前の彼は当然の如く仕事が続かず、自分が家計を支える期間も増えた妻が愛想を尽かしたらしい。
しかし卒業して五年以上が過ぎると、そもそも学生時代の友人と顔を合わせる機会も格段に減って来ていた。
当然、共通の知り合いのその後について耳に入ることもなくなる。
──どうせまたつまらない嘘でも吐いたんでしょ。あれからもう十年経つのに、頭の中身はそのままってことか。「エイプリルフール」だけにしておけばよかったのにね、理久。
あの男は、この先も何も変わらず気づかず転落していくだけなのだろう。
あのとき見切っておいて、きっとよかったのだ。
たとえその場は笑って合わせていたとしても、必ず何処かで壊れていたと今も自信を持って言える。
負け惜しみだと思われても一向に構わなかった。
どうしても嫌な思いがつきまとって好きになれなかった「エイプリルフール」に、亜未は感謝したほうがいいのかもしれない。
~END~
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