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 約束の時間にやって来た彼と、言葉を交わすことなくカウンターに並び席に着く。 「稜司、あと一回だけ訊くわ。私に隠してることあるよね?」  腰掛けたまま静かに深呼吸して、美紀は稜司の目を真っ直ぐに見つめて淡々と口にした。  困惑した表情を浮かべたものの稜司はすぐにまた笑顔を。笑う、のとは違って。 「なんだ、またそんな話かよ。俺、何もないって言っただろ?」  自ら話す気など一切ないらしい彼に、仕方なく避けたかった単語を口にする。 「……浮気、してるんじゃないの? 私が何も気づいてないと思った?」 「はあ!? おい美紀、何くだらないこと言ってんだよ。俺のこと信じてないのか?」  いつもと何も変わらない様子に動揺しそうにもなったが、彼の言葉にはもう信頼を寄せることができなかった。  あのトークルームのメッセージが頭から離れない。  今ここで「これでも(とぼ)けるの!?」と証拠画像を突き付けたら、稜司はどういう反応を見せるのか。それで無理やり認めさせることに、どれほどの意味があるのだろう。 「わかった。それが答えなのね。私、嘘ついて、……裏切って平然としてるような男と一緒にいられないわ。別れよう」  稜司は美紀の言葉が予想外だったようで、見るからに取り乱し始めた。  取り合わずに鼻で笑うか逆切れするか。  それとなく思い描いていたのとはまるきり違う彼のリアクションを意外に感じる。 「え、……え!? そんな、俺お前と別れる気なんてなかったんだ! ちょっとした遊びっていうか気の迷いで……。なあ、あと一回だけチャンスくれないか? 絶対、美紀のこと悲しませないから──」  ちょっとした遊び。気の迷い。  ……つまりは本当に「浮気」だったわけだ。美紀の被害妄想でも思い込みでもなく。
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