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確信してはいても、心のどこかで「ただの後輩だよ。ちょっと距離近い子でさあ」と笑い飛ばしてくれる、と期待していた部分があったのかもしれない。
今になって慌てるくらいなら、それだけ美紀が大事だったというのなら、何故最初から美紀だけ見ていてくれなかったのか。
「最後のチャンス」以前にそもそも余所見などしなければ、今まで通り仲良く共に過ごせていたのに。
直前まで「まだ好きで別れたくない」と思い悩んでいたことが嘘のように、彼に未練を感じていない自分にかえって驚く。
「さよなら。私、稜司のことホントにすごく好きだった。でも、──もう無理なの」
「美紀──」
背中に聞こえる稜司の声は黙殺し、弱気を覗かせないよう気力を振り絞って出口を目指し歩く。
そのまま一度も振り返ることなく、美紀は店を出た。
どうでもいい相手なら、……そんな男と付き合う筈もないが、仮にそうだとしたらきっとあっさり切り捨てられた。
「浮気なんて! ふざけてる、冗談じゃない!」
そんな風に怒りが勝つのは容易に想像できる。
好きだからこそ、裏切りが信じられずに苦しかった。自分が何か悪かったのかと心のどこかで思い巡らせてもいた。
……好きだからこそ、簡単に「なかったこと」にはできない。
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