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◇ ◇ ◇
「ああ、佐原さん。今帰り?」
数日後。
アルバイトを終えて帰ろうとした亜沙美は、正面ドアを出たところで外出から戻ったらしい上坂と行き会った。
「はい。お先に失礼いたします」
「佐原さんて大学一年生だっけ? じゃあまだ十代かな? 若いねぇ。……これじゃ単なるオヤジだな」
挨拶をして頭を下げた亜沙美に、彼は畏まらなくていい、と手振りしつつ話し掛けてきた。
「はい、十九歳です」
「そうか、私より二十も下なんだ。今年で四十になるから。不惑近いとはいえ、まだまだ惑うばかりなんだけどね」
四十歳。今はまだ三十九歳か。どちらにしても、亜沙美からしたら大して変わらない。
両親はどちらも五十少し手前、所謂アラフィフなので、この上司は親の方に余程近いことになる。
もちろん、大企業ではなくとも『支店長』という要職についているからにはそれなりの年齢なのは当然とはいえ、上坂は三十代半ばにも見えた。
ただ本当に若く見えるのか、それとも亜沙美が年代の離れた男性の年をきちんと認識できていないためかは不明だ。
それでも亜沙美が、失礼ながら四十歳男性と聞いてイメージしてしまう「くたびれたオジサン」とは程遠いのだけは間違いない。
「だったらお子さんもまだ小さいんですか? 奥様はお家に?」
無難な、──年上のよく知らない人に対する当たり障りのない話題。心底そう信じていた。
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