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◇ ◇ ◇
「おいし〜」
「な? やっぱりママの料理は最高だよな!」
夫と娘の嬉しそうな表情に幸せを感じる。
「これくらいもっと早く言ってくれたら良かったのに」
「いやあ、でも作ってもらうのに文句言っちゃいけないと思って。芳美も働いてるのに。まして『母ちゃんの味で作れ!』なんて情けない」
大学卒業まで関西の地元で過ごした夫には、こちらの、……芳美の料理は口に合わなかったのではないか。それでも彼は、「悪いけどこれ苦手だ」と好みは言っても、決して芳美を頭ごなしに否定することはなかった。
基本的には何でも「美味しい」と喜んで食べてくれる。そして確かに料理はできない夫だが、それ以外の家事は「手伝い」に収まらず何でもよくやってくれていた。例えば食器や鍋を洗うのも彼だ。
娘も夫も、芳美を義母と比べたりはしていなかった。義母本人にもそんな意識はないだろう。せっかくの気持ちを、芳美の身勝手な感情で謝らせてしまったのが申し訳なかった。
「これからは味の感想とかちゃんと聞かせて。『まずい、食えない』は怒るけど、『もうちょっとこういう味がいい』とかリクエストはしてくれていいのよ」
反省を込めて切り出した芳美に、二人は笑顔で応える。
「え~、ママのごはんはぜんぶおいしいよね!」
「そうそう。普段は本当に不満なんかないんだよ。でも玉子焼きは俺がちゃんと最初に言っとけばよかった。ごめん」
理不尽に八つ当たりしてしまった自覚もある芳美に、家族は優しかった。
「ありがとう。じゃあもっと美味しいもの作るわ!」
~END~
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