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田中くんは廊下の窓の向こうにある北校舎裏、つまり昨日会ったところを目で指すと、あぜんとするわたしを残して、長い脚でさっさと行ってしまった。
わたしも一限目のチャイムが鳴って、ようやく弾かれるように教室へと戻った。
でも頭の中はだいぶ混乱していた。
だって、あの田中くんがだよ?
条件だって、何を言ってくるか、わかったもんじゃない。
気づけば昼休み。
蓉子ちゃんとは同じクラスだけど今の席は離れているし、休み時間もゆっくり話すほどの時間はないしで、いつものわたしたちの休憩場所、立ち入り禁止の屋上入り口前の階段に座ると、ようやく一息つくことが出来た。
「なに? 明里。朝、先生に呼び出されてたみたいだけど、何だったの?」
つい蓉子ちゃんをじっと見つめていたわたしに、当然、彼女は不思議そうに問いかけた。
「あ、ううん。期末テストのことだった。頑張んなさいって。特に数学と物理」
不自然なくらいヘラヘラと答えてしまったけど、心の葛藤には気づかれなかったみたいだ。
心の中では、今朝から何度蓉子ちゃんに「二万円貸して欲しい」と言おうとしたか。
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