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校内で、というか家族と蓉子ちゃん以外には呼ばれたことない下の名前をすんなり口にする田中くんが微笑みかけてるのは……わたし、だよね?
「お、お、おはよう。い、いきなり、名前呼び?」
「うろたえんなよ。つきあってるんだからさ」耳もとで周囲に聞こえないように言われてヒユッと身が引き締まる。
「そ、そっか。も、もう、始まってるんだ?」
校舎に入るまで何分もなかったけど、その間、当然注目の的だった。
「明里、今日の昼、一緒に食べれる?」
わたしたちの下駄箱は三組と六組でちょうど背中合わせに位置しているんだけど、互いに上履きに履き替えてるときに田中くんがわざわざ大きな声で聞いてくるなんて。
そうか……わかってきた。田中くんの目的は周囲への“彼女がいる”アピールだ。
「えぇ〜」と言いかけたわたしに、ぶつかりそうな勢いで接近してきた田中くんが
「嫌そうな顔するな。今日、金持ってきたんだろ?」声をひそめて告げる。
「うぐっ」
そう。田中くんのおかげで、お母さんに連絡が行くことなく、無事に支払い出来るのはたしかだった。
ちなみにお母さんは土日も急に休んだパートさんのために出勤してたから、とても言い出せる雰囲気も時間もなく、実際助かったのだけれど。
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