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惹かれる
『ありがとうございます』
綺麗な姿勢で頭を下げる目の前の彼にいいんだよと告げる。
「僕はあくまで金銭的な援助を少ししただけ。それに今は僕が君の親なんだから気にする必要はない」
『…でも』
確かに、最近そうなったばかりなんだ。気にするなと言われても難しいかもしれない。
「麗羅。入試はちゃんと君の実力で受かったんだ。だから胸を張って」
『ありがとうございます』
えへへと心底嬉しそうに頬を緩ませ微笑む姿に自然とこちらも笑顔になってしまう。
「…君を学園に入れたら、何かが変わりそうだ」
『え?』
「いや、なんでもないよ」
出来ることなら、良い方向に。そう願わずにはいられない。
「さ、そろそろ入学式が始まる。体育館の場所は覚えてる?」
『はい、大丈夫です。本当にありがとうございました』
「いえいえ」
もう一度深く頭を下げて、麗羅はこちらに背を向けて歩き出す。じっと目で追うように見ていればふと足を止め、何故か緊張した様子で軽く振り返った。
『いってきます。…お父さん』
嬉しさと戸惑いで思わず固まってしまった。慌てた様子で再び背を向けたのを目に出来る限り優しい声を意識して返す。
「いってらっしゃい」
きっとあの子なら、大丈夫だ。
先程まで目の前にあった柔らかな笑みを頭に浮かべ、とある場所に電話をかける。
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