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「――ここには、もう慣れた?」
「ええ、なんとか」
資料棚にぎゅうぎゅうに詰め込まれたデザイン誌。そのバックナンバーから目当ての号を探しつつ、ぼくは答える。
「勝手が違うので、まだ少し戸惑いますけど」
「すぐに慣れるよ」かれも隣に並んで棚を物色しながら、「――おれの父親は転勤族でさ、何度転校したか覚えていないくらいなんだ。学校が変わるたびに馴染むのが大変だった。まあ、途中から開き直ったけど」
「そうでしたか」
「悪い、学校と会社を一緒にされても困るよね」
ははは、と笑うと、かれはB4サイズのファイルを一冊抜き取り、ぺらぺらとめくった。
ぼくは気の利いた返事が思い浮かばず苦笑いを浮かべただけで、古い号を何冊か選ぶと、手近な椅子を引き寄せて腰を下ろした。
思いがけず、かれはわざわざ離れたところにある椅子を持ってきて、隣にどっかと座った。
これから本題がはじまるのかな、とぼくは少し緊張する。
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