22人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
「これ、おれがデザイナーになってはじめて作ったポスターなんだけどさ――このタイトル、なんて読むか知ってる?」
「《しんらばんしょう》、ですね」
「そうだよね、知ってるよね!」
なぜか、かれは異様なほど楽しそうだ。
ひとりでうんうんと何度も頷くと、衝撃的なことを言った。
「これさ、おれ、《もりらまんぞう》って読んだんだ」
「ん⋯⋯?」
「就職してすぐだから、二十歳のころだよ。森羅万象って字を見せられてさ、《しんらばんしょう》なんて読めるわけないよ、どう見ても《もりらまんぞう》だよ。一体どこの大作家先生なんだって、先輩みんなに突っ込まれたね!」
かれは思い出し笑いに腹を抱え、目尻に涙さえ浮かべている。
ぼくは笑っていいものか判断がつかず、やはり苦笑い。
「おれって、ほんとバカだったんだよ、昔っから。勉強なんかまるでダメで」
「……意外です。だって社長、ぼくと同い年ですよね」
「そう、二十九」
「ぼくなんてまだ、一介のデザイナーですよ、自分の事務所を立ち上げるなんて、とても出来ません」
「本当に、きみは変わらないね」
「……え?」
最初のコメントを投稿しよう!