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「これ、おれがデザイナーになってはじめて作ったポスターなんだけどさ――このタイトル、なんて読むか知ってる?」 「《しんらばんしょう》、ですね」 「そうだよね、知ってるよね!」  なぜか、かれは異様なほど楽しそうだ。  ひとりでうんうんと何度も頷くと、衝撃的なことを言った。 「これさ、おれ、《もりらまんぞう》って読んだんだ」 「ん⋯⋯?」 「就職してすぐだから、二十歳のころだよ。森羅万象って字を見せられてさ、《しんらばんしょう》なんて読めるわけないよ、どう見ても《もりらまんぞう》だよ。一体どこの大作家先生なんだって、先輩みんなに突っ込まれたね!」  かれは思い出し笑いに腹を抱え、目尻に涙さえ浮かべている。  ぼくは笑っていいものか判断がつかず、やはり苦笑い。 「おれって、ほんとバカだったんだよ、昔っから。勉強なんかまるでダメで」 「……意外です。だって社長、ぼくと同い年ですよね」 「そう、二十九」 「ぼくなんてまだ、一介のデザイナーですよ、自分の事務所を立ち上げるなんて、とても出来ません」 「本当に、きみは変わらないね」 「……え?」
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