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 かれはにっこり笑うと、ふいにシリアスな顔つきになった。  そのまっすぐな眼差しは熱を帯びていて、さっき泣き笑いしたせいだろうが、充血した腫れぼったい目は色っぽく見えた。 「おれは運がよかっただけなんだよ。ダメなおれに希望をくれる人に出会えたから」 「希望……」 「そう。中一のときに転校した先の学校でね、すごく絵の上手い同級生がいたんだ。大人しくて、いつもひとりだったけど、友達がいなかったわけじゃないんだ、ただひとりで絵を描くのが好きだったから、休み時間は必ず教室に残って絵を描いてた。窓際の机で、ときどき、外で遊ぶ友達に手を振ったりしながら。で、おれはというと、どうせすぐにまた転校するし、新しい友達を作るのは面倒だと見切りをつけたころで、その子のことを遠巻きに見てたんだ」  かれが、まるでかつての同級生を見るように、窓のほうへ視線を投げた。  ぼくも思わず、その視線を追う。  急激に鼓動が早くなり、胸が締めつけられるようで苦しい。その先は、その先は――のんびりと話すかれの言葉をじれったく思いながら待つ。 「おれは勉強だけじゃなくスポーツもできなくてね、野球をすればボールを拾えない、サッカーをしてもまともに蹴れない……鈍くさくてさ。バカにされるのは慣れてたし、もともと落ち込む性格でもなかったから平気だと思ってたんだけど、ある日ね、なんでもない日に、いきなりその同級生がおれに話しかけてきたんだ」 「……その子は、なんて?」 「ちょっと泣いたら?って言ったんだよ」  かれがおもむろに顔を動かし、ぼくに視線を戻したのがわかった。  でもぼくは、かれを見ることができない。 「泣いたらすっきりするよ、ドンちゃんって」
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