記憶をたずねて

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青年はこの現実離れした店とルカを大層気に入ったらしく、学校が終わると毎日やってきた。人よりも動物が好きで、ルカが布団で寝そべる隣で地べたに座り、その日あった出来事を話した。 もうすぐ野球のオフシーズンに入ってしまう。自分は怪我が治るまで何もできない。皆に置いてきぼりで悔しい。 他に夢中になれるものを持っていれば良かった。 周りを妬んで自分から距離を置いたせいでひとりぼっちになった。 千秋を大切にすれば良かった。 その呟きの多くは懺悔だった。青年の声は変わらず抑揚がなくトーンが低いため聞き取りにくいが、そうやってルカの隣に座っている間、雨無は気を遣って奥の部屋へ場所を移して二人の時間を邪魔しないようにした。 ルカはできるだけ眠らない努力をしていた。眠ってしまえばこのまま目が覚めないかもしれないからだ。以前にも増して、眠気に襲われて目を閉じる時間が多くなったが、青年の声にピンと両耳を立てて懸命に聞こうとした。自分が行けない外の話は興味深く、その情景を思い浮かべることで頭が冴えていった。 出会いは懲り懲りだったが、またこうして新しい出会いがあったことにルカは心のどこかで歓喜している。命の終わりが遠くになった気がしたし、何より最後の最後にまだ自分を必要としてくれる存在がいたことが嬉しかった。 青年に助言をしたり、一緒に運動をしたりすることはできない。ルカができるのは、落ち込む青年の頬を舐めることくらいだ。すると、青年は口をきつく結んで、周りに誰もいないことを確認してから覆い被さるようにルカに抱きついた。 「お前は人を安心させる力があるんだな」 青年から懐かしい匂いがする。 カブトという、最初に付けられた名前が過ぎった。あの男の子も青年のようにたくさん悩んで、今頃大人になっているだろう。豆太郎と付けた若い夫婦は、どんな家族ができただろう。 ココアと付けた人は、レオンと付けた人は・・・・・・。 枝分かれした生き方があった。きっとどの道に進んだとしても幸せはあって、最後はこうして暖かい場所に辿り着いただろう。 ___さあ、与えられた最後の役目を果たそう。 ルカは両耳を立てるのをやめて、かつて日和がしてくれたように青年の体に寄り添った。自分が救われたように、決して独りではないと温もりを通じて相手に精一杯伝えた。 どうかちっぽけな花を忘れずにいてくれるようにと、ルカは青年の腕の中で願いを込めた。
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