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ありとあらゆり観光名所を訪ね回り、二泊三日の旅の時間は流れた。
この国に来て珍しい食べ物や音楽を味わって体は満たされたが、心だけはやはり満たされなかった。
どうしても、妄想の世界に入り現実と壁を作ってしまう。
独りでは広すぎる飲食店のテーブルの向かいに、彼女が座っている妄想。
雑貨屋で可愛い北欧人形を強請る彼女がいる妄想。
僕の手を引いて微笑みながら街中を走る彼女がいる妄想。
美味いものを食べさせてあげたいとか、やらせてあげたいとか、僕が体験するとまずそんな願望が頭を過ぎる。そうなるとますます惨めな気分になった。
最終日は生憎の雨で、せっかくの美しい街を観光するのに視界は最悪だった。入国した時のキラキラが、くすんで見えてしまうのは悪天候のせいか、僕の精神が弱っているせいか。
帰るまでまだだいぶ時間があるが、独りでうろつくのに疲れた僕は教会らしき建物の石段に腰をかけて過ぎ行く人々を眺めた。
現地の人や異国からの観光客達は目を輝かせて前を向いて歩いている。外見の違いなんかより目が生きているか死んでいるかの違いの方が歴然としていた。
鏡を見なくても酷い顔をしていることくらいわかる。綺麗な風景画にシミが一つあれば目立ってしまうように、僕の陰湿な雰囲気に目を向ける人が何人もいた。
僕は気にせず背中を丸めて壁に寄りかかり目を閉じた。結局、ここに来ても変わらない。日本に帰ったらまたいつものように眠る日々の続きが始まるんだ。
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