魚ガン池

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魚ガン池

 この池は、神様が制裁の機会として与えてくれたものだ。フミカは池を覗き込み、青い魚の群れにタモ網を差し込んだ。 「先生の目、よく見るときれいですね」  網ですくい上げた目玉がこちらを見ている。池から上がった魚は水を求めてはねていたが、しばらくすると諦めたのか、大人しくなった。  フミカは魚を湿った地面に押さえつけ、制服のポケットからシャープペンシルを出した。 「クラスの子達の成績が悪いと、先生はひとりずつ教室の前で、お説教するじゃないですか。ああいうの公開処刑って言うんですよ。あと、急に怒鳴るのって威嚇ですか? ……いつもきょろきょろ教室を見回して、怒鳴る相手を探してますよね」  シャーペンの先を目に近づけると、大人しかった魚がわずかに動いた。今から何をされるのか、分かっているようにも見えた。  フミカは魚の目にシャーペンを突き立てる。真ん丸な水晶みたいな目玉がつぶれ、魚の口がパクパクと力なく動いた。  その魚の顔は、フミカのクラスの担任教師__飯島にそっくりだった。  一限目は苦手な数学だ。いつもは憂鬱なだけだが、今日のフミカは違った。  担任で数学担当の飯島が来るのを、今か今かと待っていた。教室のちょうど中央辺りに座るフミカからは、開いたドアの先がよく見えない。  友人のユキと話していても、つい、ドアの向こうに意識が向いてしまう。  チャイムが鳴り、ユキが席に丁度戻ったとき、ドアの向こうから灰色の背広を着た教師が現れた。 「先生、どうしたんですか?」 「……出席をとる。着席しなさい」  担任の飯島は、教壇の前の席に座る女生徒から聞かれても、何も答えなかった。特徴的な彼の大きな右目には、痛々しい包帯が巻かれている。
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