魚ガン池

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 何事もなかったように、飯島は出席を取り始めた。生徒たちのひそひそ話す声が重なり、彼の淡々とした声がかき消されそうだ。  フミカはユキと目配せすると、一人ほくそ笑み、こっそりシャーペンで消しゴムを刺した。 (ざまあみろ)  授業が始まっても、飯島はなにも説明せず、一日は終わった。  放課後、フミカがリュックに荷物を詰めていると、斜め前の席のユキが言った。 「最近、けが人が多くて物騒だよね」 「そうだっけ?」 「だってーー」  ユキが視線を窓際の席に向けた。窓際に座る女子生徒は、憂鬱そうに俯いている。彼女の口もとは、ぐるぐるに巻かれた包帯で見えない。  包帯の下がどうなっているのか、知っているのはフミカだけだ。 「静かになってよかったじゃん」  小学生のころから、彼女は陰で同級生や下級生をいじめていた。嫌がらせをされた生徒は、この中学にもたくさんいる。その中の一人は、目の前にいるユキだ。 「まあ、ね。そうだよね」  少し気の弱いユキは、眉を下げて控えめに笑った。 「それに、飯島も隣のクラスの坂口も、橋里も、怪我した奴らはみんな嫌なやつだったでしょ? きっと、天罰だよ」  最近、学校では生徒や教師が立て続けに大きな怪我をしていると、騒がれ始めている。物騒だと言いながら、ほとんどの生徒が心配するよりも好奇心に満ちた面持ちで話していた。 「ユキは部活だよね? 頑張ってね」  フミカが言うと、ユキは「うん」とうなずき、立ち上がった。彼女と一緒に教室から出ると、背後から背中に何かがぶつかった。 「いたっ」  背後から走ってきた誰かに吹き飛ばされ、フミカをユキが支える。
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