魚ガン池

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 腰を抜かしながらも、フミカは四つん這いで池を覗き込む。パクパクと口を動かす魚の顔は、クラスメイトの浅山にそっくりだった。彼女と同じ、皮肉や陰口を今にも言い出しそうな、憎たらしげな顔だ。口元の右下には、しっかり同じホクロまで付いている。  彼女だけではない。池にいる魚の顔は、よく見知った、生徒や教師たちの顔だった。 「アサヤマ エミ」  フミカは彼女の名前をつぶやいた。  彼女さえいなければ、今でも学校に楽しく通えていた生徒が何人もいる。彼女さえいなければーー。  そう思ったとたん、フミカは迷うことなく、持っていたタモ網で、彼女そっくりの魚を捕まえた。  池からあがった魚は、息ができないからか、苦しそうに地面で跳ねていた。その体を抑え、釣り針を口に差し込む。  何をしているのだろう。  頭の片隅で考えながらも、感情のまま、針で彼女そっくりな魚の口を引き裂いた。  翌日、浅山が顔に包帯を巻いてきたのを見て、フミカは確信した。あの魚たちは、彼らの体と連動している。  あれから、学校の嫌われ者たち数人に、制裁を与えてきた。半信半疑だったのもあって、最初は魚の顔を傷つけるのは気が引けたが、今朝の飯島の顔を見て確信した。  これはきっと、神様が制裁の機会を与えてくれたに違いない。戸惑う方が間違っている。 「――どこに行くの?」  家に帰ったフミカは、すぐに釣り道具を持って出かけようとしていた。玄関で靴を履いていると、背後から母親の声がした。 「釣り堀! 勉強の息抜きだし、いいでしょ?」 「本当に勉強してるんだか」 「うるさいな。……行ってきます」
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