魚ガン池

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 母親がうっとうしく、フミカは靴のかかとを叩きながら玄関を開けた。 「川には行かないでよ! 危ないんだから」 「分かってるよ。心配性だなぁ」  小言が始まる前に玄関ドアを閉めて、フミカは釣り道具を手に駆け出した。  急いで近所の山奥に向かい、池を覗き込む。 「みんな、お待たせ。待った?」  フミカは池の中にいる魚たちに話しかける。給食の残りのパンくずを撒くと、一斉に青い魚たちは渦になって群がってきた。 「出席をとる。――アサヤマ、イノウエ、イナダ」  フミカは担任教師の真似をして、クラスメイトの名前を呼んでいく 。 「さて、今日の日直は誰だ?」  腰に手を当て、池の中を覗き込む。  目についたのは、廊下でぶつかった男子生徒の顔をした魚だ。 「お前だ。こっちに来い」  フミカはタモ網を池に差し入れる。青い魚がするりと網を抜けていく。 「待て! 逃げるんじゃない」  教師の真似をしながら、池の縁を走りながら魚を追いかける。 「大人しくしろ」  ようやく捕まえてバケツに入れるが、生きのいい魚は跳ねあがり、バケツから飛び出した。懸命に跳ねながら、魚は池に飛び込む。 「あっ」と、声を出したフミカをよそに、悠々と魚が泳いでいく。  もう一度、網を池に伸ばした時だった。男子生徒の顔をした魚のそばを、小さな魚が泳いでいる。  その顔は、フミカにそっくりだった。
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