2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
足をもつれさせながらバケツを拾い、魚を両手で掬ってその中に放り込む。
「怪我はーー」
魚は無事だろうか。バケツを覗いて確かめようとしたとき、フミカは喉の奥が詰まったような息苦しさを感じた。
(まさか)
エラ呼吸の魚は、水がないと息ができない。バケツの中で、フミカと同じように同じ顔をした魚が苦しそうに口を開いている。
このままだと、家に着くまでに窒息してしまう。
(そうだ。近くの川に――!)
坂道を降りた先には川がある。フミカはバケツを抱え、坂道を駆け下りた。
動くとさらに息苦しくなり、すぐに酸欠で目の前が白んできた。苦しくても、このまま止まるわけにはいかない。釣り道具は坂の途中で投げ捨て、バケツを抱えたフミカは全速力で走り続けた。
(あと少し!)
坂を下ったフミカは河原に続く階段を降り、傾き始めた陽光の反射する川に向かってバケツを川に向かって放り投げた。
バケツから飛び出した青い魚が空中で回転し、川に落ちる。
すぐに呼吸が楽になり、フミカは深く息を吸い込んだ。
「すぅっ……」
助かった。浅い呼吸を繰り返し、河原にへたり込んだときだ。
「君、そこで何してるの?」
急に背後から、野太い男の声がした。振り向くと、河原に警察官が数人、立っていた。
坂道を走るのに必死で、全く気がつかなかった。河原に続く階段の上には、並んで停まる数台のパトカーも見える。
「あの、釣りに」
「釣り?」
釣り道具は捨ててしまったのだった。訝し気な警察官を前に、フミカは頭の中が真っ白になる。
「ここは危険だから、釣りはやめて早く家に帰りなさい」
なにか言い訳を考えていたフミカに、警察官はあたりに目をやりながら言った。
最初のコメントを投稿しよう!