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「危険?」
「自宅で隠れて大型のワニを飼育していた男が、そのワニが逃げたと通報してきてね。目撃情報によると、どうやらこのあたりにいるらしい」
よく見ると、川の向こう岸には、作業着を着た人たちが数人いる。彼らは棒のようなものを持ち、ワニを探しているようだ。
「もしワニを発見したら、近づかずにすぐに通報するんだよ」
フミカは出かける時、母親に川に行くなと言われたことを思い出す。ワニが逃げ出したことを、母は知っていたのかもしれない。
「魚が……!」
川にはフミカが逃がした人面魚がいる。ワニに食べられでもしたらーー、想像してすぐに川に飛び込んだ。
「おい! 君!」
警察官の声がしたが、それどころではない。
昔動物園で見たワニは、大きな肉塊を食べていた。魚を食べるかは分からないが、あの魚は普通ではない。彼らの食べる肉の匂いがすれば、美味しく食べてしまうかもしれない。
(きっと、まだ近くにいるはずだ)
川の中を探していると、水草の陰に青いうろこの魚を発見した。
魚に見つからないように、静かに両手を伸ばした時だ。
「危ない!」
川岸から警察官の声がした。フミカの体を覆うように、暗い影が落ちる。
振り向くと、そこにいたのは巨大なワニだった。
足元で、魚が跳ねた音がした。
とがった小さな牙の並んだ大きな口が大きく開き、フミカの顔を飲み込んだ。
それから川では、顔が半分欠けた青い魚が泳いでいると、噂されるようになった。青い魚の顔が、人間のようにも見えると話す人もいるという。
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