2人が本棚に入れています
本棚に追加
魚ガン池
この池は、神様が制裁の機会として与えてくれたものだ。フミカは池を覗き込み、青い魚の群れにタモ網を差し込んだ。
「先生の目、よく見るときれいですね」
網ですくい上げた目玉がこちらを見ている。池から上がった魚は水を求めてはねていたが、しばらくすると諦めたのか、大人しくなった。
フミカは魚を湿った地面に押さえつけ、制服のポケットからシャープペンシルを出した。
「クラスの子達の成績が悪いと、先生はひとりずつ教室の前で、お説教するじゃないですか。ああいうの公開処刑って言うんですよ。あと、急に怒鳴るのって威嚇ですか? ……いつもきょろきょろ教室を見回して、怒鳴る相手を探してますよね」
シャーペンの先を目に近づけると、大人しかった魚がわずかに動いた。今から何をされるのか、分かっているようにも見えた。
フミカは魚の目にシャーペンを突き立てる。真ん丸な水晶みたいな目玉がつぶれ、魚の口がパクパクと力なく動いた。
その魚の顔は、フミカのクラスの担任教師__飯島にそっくりだった。
一限目は苦手な数学だ。いつもは憂鬱なだけだが、今日のフミカは違った。
担任で数学担当の飯島が来るのを、今か今かと待っていた。教室のちょうど中央辺りに座るフミカからは、開いたドアの先がよく見えない。
友人のユキと話していても、つい、ドアの向こうに意識が向いてしまう。
チャイムが鳴り、ユキが席に丁度戻ったとき、ドアの向こうから灰色の背広を着た教師が現れた。
「先生、どうしたんですか?」
「……出席をとる。着席しなさい」
担任の飯島は、教壇の前の席に座る女生徒から聞かれても、何も答えなかった。特徴的な彼の大きな右目には、痛々しい包帯が巻かれている。
最初のコメントを投稿しよう!