第二話:いわゆるダイナマイト♡マリン爆誕ってやつ

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第二話:いわゆるダイナマイト♡マリン爆誕ってやつ

私、伊藤魔鈴がこのような目に遭っていることに関して順を追って説明するならば、話は先ほどより何週間か前にさかのぼることになる・・・ 「だいたい教室以外に掃除が必要なんてしんどくない?」 「まあまあ、結局教室も誰かが掃除しなきゃいけないわけだし、どこの担当でも変わらないでしょ・・・」 「まあそうだけどさ・・・」 私としゃべっている相手は地井千晶、あだ名はチャンチー。私の幼馴染にして親友、そして同じ高校に通うクラスメイトだ。 そして会話からわかるように学校の授業が終了し、今は掃除の時間というわけだ。 ちなみに私たちが担当するのは校庭の花壇の水やりとゴミ拾い・・・ こういうのは正直園芸部にでもやってほしいものなのだが、残念ながらそのような都合のいい部活はこの高校には存在しない。 「ま~とりあえず適当に終わらせて帰ろう。」 「賛成!さっさ掃除終わらせてヌタバの新作飲みに行きましょ!」 右手にゴミばさみ、左手にゴミ袋を持ち、花壇のゴミを拾う。 「おいおい、花壇に空き缶投げ捨てるか~」 「あら~こっちは菓子の袋ね・・・」 「おーい、ここの治安はどうなっている~」 と二人でふざけつつ真面目にゴミ拾いをしていると・・・ チューリップの花の下に青く輝く石を見つけた。 石といっても私の握りこぶしより小さいそれは人工的に六角形に削り出されていた。 「ん?なにこれ??ねえ見て見てチャンチー!」 と拾い上げて彼女に見せようとした瞬間・・・石はまばゆい光を放ち・・・ 「あれ、消えた。」 どこかへ消えてしまった・・・ 「魔鈴、なにぼーっとしてるの?」 チャンチーの心配そうな声で我にかえる。 あれ私はどうやら寝ぼけていたらしい・・・ 「しかも・・・何も持ってないけど?」 「おかしいなあ・・・見間違いかな?」 確かに石を握っていたはずの右の手のひらを見つめる。 もちろんそこには何もなかった。 この消えてしまった石こそが、これから始まるすべての元凶『ブルースターの欠片』だとはこの時の私はまだ知らないのであった・・・ そして、その夜からが大変だった・・・ まさに悪夢の始まりである。 夜、いつも通り寝たのだが、空が赤黒く、周りは枯れ木や岩山しかない場所で、泥にまみれた人型の化け物においかけ回される夢を見始めたのだ・・・ 最初、そいつらの言っていることがよくわからなかったのだが、繰り返し叫んでいたため、なんとなく言葉が把握できるようになった。 「”ぶるーすたー”をよこせバッキー!」 「おまえが持っているのはわかっているバッキー!」 不思議なことにさらに時間がたつと徐々にその言葉が鮮明になってきた。 それにしても”ブルースター”って何? 「知らないわよ。そんなの持ってないわよ。」 試しに正直にいいかえしてみた。 「うそつくなバッキー!」 「そんなこというなら捕まえて調べるバッキー!」 「捕まえてやるバッキー!待てバッキー!」 「そこまで言われて待つバカはいないわよ!」 言うが早いかその場からダッシュして逃げる私、正直私は足が速いわけじゃないが、相手は動きの鈍い泥人形、楽に逃げ出すことができた。 しかし、余裕があったのは最初だけで、泥人形の数が次第に増え、行く先々に現れるようになった。 「無駄な抵抗はやめるバッキー!仲間を呼ぶバッキー!」 「え?増えてる?」 「しぶといバッキー!」 「おとなしくするバッキー!」 気が付いた時には泥人形は3体から20体ほどに増え、四方八方から追い詰めるように動き出し・・・そしてついに囲まれてしまったのである。 「追い詰めたバッキー!」 「観念して”ぶるーすたー”をよこすバッキー!」 「だから何よ!”ブルースター”って、私知らない。」 ん?私はそれを本当に知らないのか?徐々にあやしくなってきた・・・ なぜならば頭の中に校庭で拾ったあの石の事が思い浮かんだからである・・・ 「その手にあるものは何バッキー?」 気が付くとその青い石が右の手に握られていた。 「そうだ!それが”ぶるーすたー”バッキー!」 「そいつを渡すバッキー、これでワレもパワーアップできるバッキー!」 「ずるいバッキーそれはワレのバッキー!」 急にもめ始める泥人形、これは逃げ出すチャンス! ・・・と思いきや、逃げる隙は全く無かった・・・ こうなれば降参してヤツらに渡して見逃してもらうか・・・ そんな考えが頭をよぎった時・・・ 「マリン!そいつを渡したらあかんで!」 私に向かって誰かが叫んだ・・・ 「何やつバッキー!」 「邪魔するなバッキー!」 その声の主は・・・山羊?? 大きさは動物園でみた子山羊そのものの大きさなのだが、唯一違うのは毛の色が青・・・そのせいでかなりの違和感があった・・・ 「待たせたな!」 私とバッキーの間に割り込んでくる! 「え、ひょっとして戦ってくれるの?」 この状況を打開するのを期待し、聞いてみた。 しかし、それは次の山羊のセリフですべて崩れ去った。 「アホ、お前が戦うんじゃ、手にロッドがあるだろが!」 いまさらなのだがこの青山羊関西弁?しかもかなり口が悪い・・・ が、とりあえずそれは置いておいて・・・私は石があるはずの右手を見ると代わりに小枝ぐらいの大きさのロッドが握られていた。しかも先端に球体と翼のついた奇妙な形・・・ 「へ?なにこれ??私いつの間に持ってたんだろ・・・」 若干私は混乱してしまった。 「そや!そのロッドを使って変身するんや!」 変身?変身っていったいどういう意味?? ますます混乱するんですけど・・・ と思っていたら謎のイメージが頭に浮かび、無意識のうちに呪文らしき言葉を放っていた。 「青く輝く幾千の星たちよ!我に力を!変身!!魔法少女ダイナマイト♡マリン!」 ん?魔法少女って?!私とんでもないことを口走っているような・・・ すると視界が青い光に包まれ、気が付いた時にはミニスカひらひらのとんでもなく恥ずかしい服装になってしまっていた・・・ 「うわっ!これ対象年齢10歳が限度じゃない・・・」 あまりにもひどい格好に私は山羊に抗議した。すると 「文句いうなや!最近の魔法少女が地味な恰好でどないすんねん!」 と逆ギレされた。 「偏見!後で訴えてやる!」 「どこにや!」 この青山羊ツッコミだけは鋭い・・・ とりあえず開き直ってこの先について聞いてみることにした。 「で、変身したらどうなるの?」 「このロッドで戦うんや!」 どうやら、私は泥人形たちと戦える力を得たようだ。 「ふーん、で、このロッドから火の玉でもでるわけ?」 私もこのような展開を知らないわけではない。これが王道というものだ! しかし、この山羊とんでもないことをしゃべり始めた。 「そんな能力はあらへん!とにかくこいつでどつきまわしいや!」 まさかの物理攻撃・・・このロッドで殴れと・・・ 殴るにしてもリーチがそんなにあるわけじゃない・・・ 「物理的に殴れ?結構むちゃくちゃいうわね。」 私は仕方なく山羊の言うとおりに泥人形を軽くこづいた。 その途端、泥人形はチリと化し消え去った。 「あ、なにこれ?結構すごいじゃん。」 「どや、これがダイナマイト♡マリンの力や!これならザコバッキーも一撃やで!」 なぜかドヤ顔の青山羊、どうやらこの泥人形ザコバッキーというみたいだ。 もぐらたたきの要領でバッキーという泥人形の頭を次々叩いていく すると、先ほどのピンチがうそのようにひっくり返り、20体いたザコバッキーたちはあっという間に消え去った。 「やった!ザコバッキーが全滅した!」 「やるやんマリン!」 「で、これでおしまいってことでいいわよね!」 このおかしな状況が終わることを期待し、ロッドを無意識にポーチにしまった。 すると先ほどの魔法少女の姿からいつもの服装に戻った・・・どうやら変身が解けたようだ。 「まあ、今日はこれぐらいにしとこか・・・」 おかしなことを言いだす青山羊・・・ 「今日は・・・ってどういうこと?まだ続くの?」 たまらず私は質問した。すると・・・ 「アホか・・・これからが本当のはじまりや!マリン、お前にはこれから『ある物』を集めてもらうで!」 「なによそれ・・・物集めを手伝えってこと?」 とてもいやな予感がする。 ま、そういうことや!この夢を終わらせたいんならワイのいうこと聞いた方がええで。とりあえず仲良くしたってや、うちの名前はヤギピーや!」 「はあ、そうなの、それしか解決方法がないんならしょうがないか・・・」 「そういうことや・・・」 「ん?ってことはあんた今までのいきさつ知ってるんじゃないの?詳しく教えなさいよ!」 「えーと、なんのことかさっぱりわからへんな・・・」 急に焦りはじめしらばっくれるヤギピー・・・こいつ絶対何か隠してる! ジリリリリ 赤黒い空に急に不釣合いなベルの音が響き渡る。しかも音を出すようなものが一切ないのにだ・・・ 「あかんそろそろタイムリミットや!詳しくはまた後でな!」 半ば安心したような表情で前足を器用に振りバイバイするヤギピー その途端眠気とともに視界がぼやけ始めた・・・ 「何?今の・・・夢??」 けたたましく目覚まし時計のベルが部屋に鳴り響く、目覚めると見慣れた場所にいた。 ここは私の部屋・・・私はベッドの上で飛び起き、目覚まし時計のベルを止めた。 うなされていたのか、寝汗がひどかった・・・ そして枕元に見慣れた青い山羊のぬいぐるみが・・・ あれ・・・ヤギピー この青い山羊のぬいぐるみ、5歳の誕生日に買ってもらったようだが、若干記憶があいまいだった・・・ 「あ、今日は学校休みだったのに目覚まし時計セットしちゃってた・・・目が覚めたし、汗ひどいからシャワーあびてこ・・・」 誰にいうでもなく私はそう言い放ち、ベッドを後にした。 こうして、私、伊藤魔鈴こと魔法少女ダイナマイト♡マリンの悪夢のような戦いが始まったのである。
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