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「うわっ、……今から外窓の掃除をやるのか?」
目が合った途端に声をかけてきた人物は、私より四歳年上の男性社員である窪田さんだ。
ちなみにこの店舗には、もうひとり四十代の男性店長がいる。
パートさんやアルバイトの子も働いているけれど、社員は私と萌奈ちゃんと窪田さんと店長の四人だ。
「思い立ったんで、今やっちゃいます!」
「十一時になったら店長来るだろ。そのときにやったほうがポイント高いとか考えないんだな。梅宮らしいわ」
「別に店長に評価されたいから窓掃除するわけじゃないですもん」
私たち社員の勤務形態はシフト制で、早番と遅番に分かれている。
アルバイトの休みの希望もあるため、店長がうまくシフトを組んでくれていて、今日は社員の私たち三人が早番で店長が遅番だ。
先ほど窪田さんに伝えた言葉は本心で、誰かに褒められたいとか点数を稼ぎたいとか、そんな理由で外窓の掃除をするわけではない。
私はこの店で働けさえすればそれでいい。
店長に気に入られたいなどという願望は皆無なのだ。
一見そんな捻くれたことを言う窪田さんも、店長に媚びたことなんてないくせに、と心の中でつぶやいておく。
「窪田さん、ひなたさんは自己顕示欲なんてない人なんですから~」
窪田さんの言葉は萌奈ちゃんの耳にも入ってしまったようだ。
私の援護射撃をしようと、かわいらしく唇を尖らせて抗議してくれている。
「あはは、萌奈ちゃん、大丈夫。窪田さんはいい人ですもんね~?」
「いいえ、今のはなんだかいじめてるように聞こえました~!」
なんとかうまくなだめようとしたものの、萌奈ちゃんが子供みたいに再び挑発をする。
彼女は“冗談”のつもりなのだろう。
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