◇雨男と雨女

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「あ、でも……ひなたさんのことだから、掃除したあとで雨が降るかもしれないですよね~」  雑巾やバケツを取りに一旦店内に戻ったとき、萌奈ちゃんが嫌な予言をした。 「大丈夫。今日はこんなに晴れてるし、雨は降らない予報だから」 「いやいや、わかりませんよ? ひなたさんのパワーを持ってすれば降るかも!」  どんなパワーなのかと突っ込みたいところだけれど、心当たりがありすぎて返す言葉がない。  実は私は、いわゆるだ。  子供のころは気づかなかったが、きっと昔からそうだったのだと思う。  大人になった今でも、それは残念ながら継続中だ。  旅行する日、屋外イベントに遊びに行く日……とにかくなにか楽しみにしていることがあって、晴れてほしい日には絶対に必ず雨が降る。  その日の天気予報によるだろうと考えがちだけれど、私の場合それはあてにならない。  梅雨が明けた真夏、絶対に降らないだろうと思う日でも、ザーッと夕立が降ってきたりする。  あとは、よくわからないとか。  神様がいたずらをしているのではないかと思うくらいに、間違いなく降るのだ。  だから今日も外窓を綺麗にしたあとに雨で汚れるのではないかと、萌奈ちゃんが揶揄して笑った。  そう言われたら私も降る気がしてきたけれど、とりあえず窓掃除に取り掛かろう。 「雨を恐れてたら掃除できないよ」  自然と付着した埃や水垢をスポンジで落としてから、スクイージーでかきとっていく。  最後に窓用のクリーナーで仕上げると、ガラスだけではなく私の心まで曇りが取れて綺麗になったような気がしてくる。  窓が透けるようにピカピカだとお客様もきっと気持ちがいいはずだ。  自己満足かもしれないが、そう思いながら掃除を終えた。
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