◇雨男と雨女

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◇雨男と雨女

 ぽかぽか陽気の四月は私の大好きな季節だ。  桜が咲く頃にはまだ肌寒いものの、日が経つにつれてどんどん暖かくなっていく。  だけど春は花粉症の季節でもある。  ゴールデンウィークあたりまで私はその症状に悩まされ、毎日アレルギーの薬を服用している。  それでも、私は春が好きだ。 「萌奈(もな)ちゃん、アレはどこだっけ?」 「“アレ”じゃ、わかんないですよ~」  職場の同僚で後輩の寺沢(てらさわ) 萌奈ちゃんが、今日もかわいらしい声で私をほっこりとさせてくれる。  そんな彼女は癒しの存在であり、心許せる仕事仲間だ。 「ほら、窓をグイ~~っとやる、アレ!」 「ああ、スクイージーですかぁ?」 「そう!」  萌奈ちゃんの言うとおり、スクイージーという名前だったのを思い出した。  金属ブレードに平らなゴムが装着されていて、反対側には黄色いスポンジがついている窓用の掃除用具だ。 「スクイージーなら事務所の掃除用具入れの隅に置きましたよ。もしかして、今から窓掃除をする気ですか?」  小首をかしげる萌奈ちゃんに、私は笑みをたたえつつ首を縦に振った。
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