『七才』

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 午後2時、ハヤテがわたしをお迎えに来た。  ハヤテはお隣の部屋で、奥さまたちのヨガの先生をしている。  わたしはバレエの柏田先生に、さよならのハイタッチをした。  奥さまたちのためのバレエのレッスンだけど、わたしは今日特別に入れてもらった。  それはわたしが特別に上手いからじゃない。  今日は保育園に行けないから。  卒園式のあと、3月の終わりまでは保育園に行くことができた。  だけどあと一週間、小学校が始まるまでは、わたしはハヤテのいるスポーツジムで過ごす。  奥さまたちの時間が終わって夕方までは、ハヤテが休み時間になる。 「ひかり」  ハヤテがわたしを優しく呼び、わたしは駆けよって、ほっぺにハヤテのキスを受ける。  ハヤテは奥さまたちにとても人気がある。もちろん柏田先生もイケメンらしいけれど。  そのとき、奥さまたちのざわめきの向こうにユキトの頭が見えた。  ひょろっと背の高いユキトは遠くからでもよく分かる。 「早めに帰れたんだよ」  奥さまたちをよけながら歩いてきたユキトが、床に膝をついて、やはり、わたしのほっぺにキスをした。 「ひかり、今日から春休みなんでしょう?」  それから立ち上がると、ハヤテとユキトはキスをした。ほっぺではなく、唇に。  近くにいた奥さまの一人が顔を赤くした。    わたしはこういうとき、つとめて、まじめな顔をするようにしている。  暖かいのでレオタードの上に上着を羽織っただけの格好で、わたしたちは、スポーツジムのすぐ近くの、わたしたちのマンションに帰る。
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