『七才』

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 わたしの「お世話」をするのは、ハヤテの方が上手。  ハヤテはお料理も上手。  ハヤテのご飯はお母さんのよりも美味しい。  ハヤテはわたしの髪の毛をシニヨンに結うことだってできる。  たまにユキトがわたしの「お世話」をすると、とっちらかったことになる。  でもわたしはもう、そんなにお世話が要らなくなった。  シニヨンはむつかしいけど、自分のしたくだって、だいたいできる。  もう一年生だもの。  だからわたしはお母さんが遠くに行ってしまったって、そんなに困らない。  お母さんは、冬の終わるころに、ヨーロッパの真ん中あたりの、なんとかというところへ踊りに行ってしまった。  お母さんは、小学校の入学式で着る服も靴も用意してくれたし、昨日もビデオ電話でお話しをした。  わたしを大好きと言ってくれた。  お母さんが20才のとき、わたしが産まれた。  ハヤテもユキトも20才のとき。  お母さんは、20代のうちにもう少し自分を試したい、と言った。  じぶんをためす、というのはチャレンジすることだって。  チャレンジ、はハヤテがよく使う言葉だ。  ブロッコリーとかしいたけとか、一口だけでもチャレンジしなさいって。  お母さんは、ひかりも、もう、一年生だものね、とも言った。  お母さんに卒園式に来てほしかった。  ハヤテとユキトは来てくれた。  だから、まあ、いい。  夕ごはんの支度をすると、ハヤテはスポーツジムに先生をするために戻ってしまった。  わたしとユキトは、ハヤテの作ってくれた夕ごはんをふたりで食べた。  ユキトはよく本を読んでいるし、わたしにも読んでくれる。  わたしも本が好きだから、もしかしたらユキトがわたしのお父さんなんだろうか?  ユキトはピアノも弾く。  わたしは、今日はピアノの気分だった。
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