『七才』

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「僕は、ひかりが産まれたとき、ほんとうに嬉しかったよ。僕はね、自分はだれかを、ほんとうの意味で愛したりできないんじゃないかと思っていた。だから、ひかりが産まれてから、自分がこんなにも、ひとを愛せるんだなと思ったよ」  湯船の中で、ユキトがそう言った。  ユキトって、わたしの話を聞いてたのかな?  わたしがバレエが上手くないって話。  ユキトはわたしを愛していて、バレエなんて関係ないってこと?  じゃあ、ユキトはお母さんを愛してるの? 愛してないの?  ユキトはハヤテを愛しているの?  ユキトはわたしのお父さんなの?  もしそうじゃなかったら、愛してくれないの?  わたしは聞きたい。  でも、そんなこと、聞くわけにいかないじゃないか。    わたしは湯船の中でユキトに背を向ける。  泣きそうな変な顔を見られたくないから。 「ひかりは、かがりに会えなくてさみしいのかな?」  ほら、ユキトって、とんちんかんだ。  そんなんじゃないのに。  わたしが湯船にあごをつけると、まっすぐな髪がお湯の中に広がる。  髪の毛も目も、からだがちびっこなところも、お母さんそっくりと言われる。  いきうつし、のようだと。 「そういえば、ひかりも、もうすぐ一年生だから、そろそろお風呂も一緒に入れないなぁ」 「ええっ?」  わたしは思わずユキトを振り返った。  一年生になったら、お風呂も一人で入らなくちゃいけないの?  わたしはユキトのやせっぽちな身体をながめる。 「むかしはよかったなぁ」  ため息がお湯の上に、波みたいに広がった。  ユキトはお湯をすくいながら笑った。 「昔?」  一年生になるって、ゆううつなことばかり。  7才の女の子に悩みがないなんて、やっぱりウソばかりだ。
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