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試験週間の最終日、6月の終わり。
指定された待ち合わせ場所は、体育学科専門棟の二階の第五スタジオだった。
定期テストが終わった開放感と夏休みが始まる予感。そんな日の夕方に隼とかがりに会えるのは嬉しかった。
うちに遊びに来て、と僕に誘いかけたのはかがりだった。
その時点で、隼とかがりがどこまでそのつもりだったのか、僕を誘い込むつもりだったのかは、分からないのだ。
振り返ってみても、僕は親密な人間関係の初心者だった。
友達がいないわけではなかった。でも、特別というものが分からなかった。
子供時代の友人はアメリカの中央部に今もいるのかいないのか、SNSを覗いては、そんなふうに思い巡らすことはあった。
生まれてから十九年間、恋人がいたことはなかった。
隼とかがりと僕。その関係性が、奇妙だ、とまでは思わなかった。
かがりの花が咲くような笑顔が僕に向けられること、隼の大きな手がふいに僕の肩に触れること、それは恋するふたりの幸せのおすそわけなんだと思っていた。
事実、そうだったのかもしれない。そのことは僕の胸を、今もときどき痛ませる。
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