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僕たちの結婚生活にはちょっとした説明がいる。
結婚生活と呼べるのか自信がない。
どんな形であれ、僕たちが家族であることに間違いはないと思っている。
僕たちは産婦人科の診察台がどういうものか知らなかった。
そこで女性がとらされる姿勢は、かがりよりも隼に大きなショックを与えていた。もちろん、かがりの下半身はカーテンのようなもので隠されていたのだけれど。
「三人でセックスしました」
ごまかすとか取り繕うということを知らないほど若かったわけではない。
僕たちはそういうことをしたくなかったのだろう。
「三人で一緒に、です。日にちの差というものはありません」
診察台の上で股を開かされたまま、かがりは答えた。
診察室の揺らめくモニターに映し出された白い影。
まさに小さなタマゴのようだった。
医師に説明されてよくよく観察すると、確かにタマゴの中が、どくどくと脈打っていた。
かがりのお腹の中でタマゴは生きていた。君のことだ。
そのときの君がどんなに力強く見えたか。僕は一生忘れたくない。
僕たちは市役所に母子手帳をもらいに行った。
母子手帳の母親欄はひとつだけ。だけど、父親の欄はふたつ分、ふたり分の名が書き込めるスペースが用意されていた。
いささか驚いた。
僕たちは三人の名前を母子手帳に記入した。婚姻届に記入するような心持ちだった。
かがりと隼と僕。
母親の職業欄と父親の職業欄には、学生と書いた。
これで説明が充分だとは思わない。
嘘は、無い。
正直であることが良いことなのか分からない。
家族の中の嘘や秘密が、必ずしも不誠実とは限らないと思う。
正直に綴ることが君を傷つけるんじゃないかと心配になる。
僕はこの文章を君のために書き始めた。
君はもうすぐ六才。来年には小学生になる。一つの節目のような気がするんだ。
君がこれを読むのは十九才から二十才の間くらいがいいんじゃないかと思う。
僕たちが回り始めた年だ。
この文章は僕の決意表明でもある。
僕たちは不安定な回転盤の上に立ち続けている。
君が二十才になる頃にも、立ち続けていたいと願っている。
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