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かがりは下着無しでレオタードを身に着ける。
それに慣れきっているのか、下着無しで出歩いて僕をはらはらさせた。
大学一年生のその当時、隼はかがりのそんな習慣を知らなかった。
汗で透けるTシャツ。
レオタードに浮かび上がるかがりの小さな胸と小さな突起と、力の抜けた白い腕と。
青ざめたまぶたと紅い頬。
熱い呼吸。
初めての恋心。
「かがりは助けを呼んでた」
僕に告白されたふたつのかくれんぼ。
見つけてもらえなかった十才のかがりと、探し出された十八才のかがり。
「オレがかがりにキスして身体に触った。それはかがりにも分かってたと思う。だけど溺れてるみたいに手を伸ばして、呼んでるんだ。オレの名前を呼んでた」
隼、たすけて。かがりはそう繰り返した。
今もきっと、隼の耳の中でかがりの声が繰り返している。
かがりの中で分裂してしまったふたりの隼。
かがりを探し出して抱きしめてくれる隼と、かがりの身体を押し開こうとする隼と。
「ユキはオレが好きなのか?」
オレはひどいよと、隼は僕の頬に触れた。
手の甲で撫でるように。
このときから隼は僕にこんな触れかたをするのだ。手の甲で。
「好きだよ」
好きだなんて感情は理不尽だなと思う。
隼はかがりだけを想っている。
「逃げるなよ」
猛禽類のような狙う目だった。
「逃げないよ」
捕らえられて食べられてしまいたいのだと、知っていて隼はそんなふうに言うのだろうか。
「オレはひどいよ。かがりの人生もユキの人生も、オレのせいでめちゃくちゃだ」
だけど、自ら足を踏み入れたのは僕だ。
僕は隼が僕たちの王様らしく君臨するためなら何だって差し出すだろう。
「めちゃくちゃにされるのってたまには悪くないと思うよ。僕は良かったよ、さっきのキス。嬉しかったよ」
ひゅっと、隼の喉が絞まるような音がした。
呼吸を止めるな、と僕は言ってやった。
隼は生き延びるのだから。
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