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10.二十才 大学三年生 十一月
ひかり。
君の名はかがりが名付けた。
これ以上ぴったりな名前はないと思っている。君は僕たち三人に光をもたらしてくれた。
愛するということを、僕は君から教わった。
僕が君を愛する気持ちは、君に伝わっているだろうか。
伝わっていてもいなくても、僕は君を愛し続ける気がするんだ。
君は泣いて飲んで排泄をして、生きるという爆発的なエネルギーを発散していた。
ただ存在してくれている、それだけでいい。
ひかり。
君は十一月の始めに産まれてきた。
明け方に産まれてきた。
立ち会い出産は、かがりが希望しなかった。かがりは痛みで取り乱す自分を見られたくないと言った。
妊娠検査薬の日から出産まで、かがりは常に凜としていた。
身体を使う競技なのだ。指導教官や他の部員たちに妊娠を隠しておくことは出来なかった。
かがりは隠さなかった。
自ら助けと指導を求め、大学に残る条件について交渉した。
僕はかがりの横顔と、まっすぐな背骨と首筋を誇らしく思った。
君のことも。二千五百グラムすれすれで産まれてきた小さな君のことも。ほんとうに誇らしく思う。
ひかり。君が何のために生まれてきたのか、僕には分からない。
産まれたての赤ちゃんというのは、ほんとうに赤々としていて、握り込んだ小さな手に小さな爪がついていた。
こんなに小さな爪があるのかと僕は感動した。
いいかい。
赤ちゃんというのは爪だけで誰かに感動を与えられるんだ。すごいじゃないか。
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