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かがりが十才のときに何か決定的なことがあったらしい。かがりには把握できないこと。
それは修復出来ず、結局、小学校六年生の時に両親は離婚した。
父親は海外を飛び回っていたので顔をよく覚えていない。
母親はかがりを連れて鹿児島の実家に帰った。
かがりは小学校六年生で、東京の西部にある町から鹿児島に転校することになった。
「何を失敗したんだろうって考えていたの。振り付けの、どの部分だろうとか。コンクールの順位のこととか」
誰も、それはかがりの責任ではないんだと、教えてくれなかった。
かがりがどんなに努力して踊り続けても、家族が離ればなれになることは止められなかったのだと思う。
もう失敗をしたくないのだと、その言葉で、かがりは生い立ちを語り終えた。
このときのかがりはガーゼ素材の前開きのパジャマを着ていて、襟元の細かなフリルが彼女を幼くあどけなく見せていた。
「小さめに産まれた子は低血糖になりやすいって。絶対に三時間以上授乳間隔を空けてはいけませんって。脳に障害が出ちゃうかもしれないって」
白い産着を着せられて体温を守るための帽子を被せられた小さな小さな君。
いきなり始まる三時間ごとの授乳生活。
生きていくことは、決して華々しくないひとつひとつの積み重ねで出来ている。
悲壮な顔をしてかがりは授乳室に向かった。
透明なプラスチックかごのショッピングカートふうのものに、君を乗せて押していった。
僕たちは言葉を無くして、かがりの丸まった背中を見送った。
きちんと育てられるのか。
幸せにしてあげられるのか。
産後、細切れの睡眠が続く中で、かがりはよく泣いた。
泣いている乳児の君を抱えて、静かに目に涙をにじませていた。
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