11.二十一才 大学四年生 初夏

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 例えば。  大学四年生で教育実習に参加させてもらうために、僕たちは各方面に頭を下げた。  かがりは準備が間に合わず、教育実習を諦めた。  僕と隼はもちろん別々の学校で実習をした。  どちらでもほぼ同じ対応を受けた。  女子中学生を妊娠させるつもりも、男子中学生の性的嗜好をねじ曲げるつもりもないことを、説明しなければならなかった。  隼は、体育の授業中に、決して生徒に触らないことを約束させられた。  教育学部に所属しているから教員免許を取らざるを得ない、という後ろ向きな動機ではあったけれど、せっかく履修した教職課程を無駄にしたくはなかった。  今、あの頃より少しは大人になって、僕らを実習させてくれた中学校側の苦労も分かるようになった。  例えば。  隼は大学四年生で実質上サッカー部を引退した。  最終学年のとき、公式戦には一度も出られなかった。  そこはサッカー好きの若者たちのためだけの集団ではなかった。  地元企業のスポンサーがついていたし、プロ入りする選手のところにはメディアの取材もくる。  指導者陣は無用なトラブルを避けたかったのだ。  隼は裏方に回ってトップチームのマネジメントの仕事をした。
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